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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(あ)1973号 判決 1962年12月25日

主文

原判決および第一審判決中被告会社に関する部分を破棄する。

被告会社を免訴する。

被告人谷崎吉太郎の本件上告を棄却する。

理由

被告人谷崎吉太郎の弁護人小原正列の上告趣意(同上告趣意補充を含む)第一点について。

論旨は憲法三八条二項、刑訴三一九条一項違反を主張するが、所論各供述調書が強制、拷問、脅迫等によるものであることを疑うべき資料は記録上発見できないから、所論は前提を欠き、その余の論旨は、違憲をいう点もあるが、その実質は単なる法令違反の主張に帰し、適法な上告理由とならない(第一審における証拠とすることの同意を控訴審に至って撤回することは原則として許されない旨の原判示は、正当である)。

同第二点について。

論旨は事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点について。

論旨は量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても被告人谷崎吉太郎に関する原判決につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。(被告人両名の弁護人小原正列の上告理由追申書と題する書面は上告趣意書提出期限後の提出にかかる不適法のものであるからこれに対する判断を加えない。)

よって同被告人については刑訴四一四条、三九六条により本件上告を棄却すべきものとする。

職権により被告会社に対する第一審判決を是認した原判決の適否について調査するに、第一審判決はその認定した酒税法違反の行為につき被告会社に対し酒税法五五条一項一号、刑法六〇条、酒税法六二条、六一条本文を適用し、いずれも所定罰金額の範囲内で、被告会社を同判決主文一項掲記の各罰金刑に処したのであるが、酒税法六二条にいわゆる両罰規定は、事業主たる法人又は人は、その代表者その他の従業者たる行為者の刑事責任とは別個の刑事責任を負うべきものとし、不正の行為をもって酒税を逋脱した所為等に対する罰条としては同五五条一項の規定のうち罰金刑に関する部分を適用すべきものとしているのであるから、これに対する公訴の時効については、刑訴二五〇条五号により時効期間は三年であり、その起算点は同法二五三条一項により酒税法五五条一項の違反行為が終った時と解するのが相当であることは当裁判所大法廷判決の趣旨に照らして明らかである(昭和二九年(あ)第一三〇三号同三五年一二月二一日大法廷判決、刑集一四巻一四号二一六二頁)。

記録によれば、被告会社に対する本件起訴状は昭和三三年五月三一日提出受理されたのであるが、起訴にかかる(第一審判決判示)酒税法違反行為はすでに昭和二八年ないし同二九年中に終了しており、被告会社に対する本件公訴は公訴時効完成後に提起されたものであること明らかである。

してみれば、被告会社に対しては刑訴四〇四条、三三七条四号により免訴の言渡をなすべく、第一審判決が刑の言渡をなし、原判決がこれを是認したのは違法であるから、刑訴四一一条一号により右各判決中被告会社に関する部分はいずれもこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

されば、右各判決中被告会社に関する部分については刑訴四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三七条四号により自判して被告会社に対し免訴の言渡をなすべきものとし、したがって本案に関する上告趣意については、判断をすべき限りでない。

よって、右免訴の点について裁判官石坂修一の後記少数意見あるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官石坂修一の少数意見は次のとおりである。

わたくしは、本件被告会社の酒税法違反の罪について、未だ公訴の時効が完成して居らないものと思料する。その理由は、昭和二九年(あ)第一三〇三号取引高税法違反被告事件につき同三五年一二月二一日大法廷の宣告した判決中に示したわたくしの少数意見と同一であるから、それをここに引用する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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